老舗酒造店の杜氏西舘誠之が母校の高校生と一緒につくった酒米で醸した純米酒“岩手山”ストーリー
滝沢市に所在する盛岡農業高校の生徒たちが栽培した酒米で仕込んだ純米酒“岩手山”は2018年7月の発売後、高校生が作った酒米使用という話題性と、その味わいが評判を呼び、年内には蔵の在庫がなくなったという。母校である高校で酒米づくりに一緒に取り組んだ菊の司酒造杜氏の西舘誠之さんに純米酒“岩手山”ストーリーと今後の酒造りについてお話をうかがった。
オリジナル酵母づくりの研究部門から杜氏へ
滝沢市の隣、盛岡市にある1772年創業の菊の司酒造。そこで杜氏を務めるのが滝沢市柳沢地区在住の西舘誠之さんである。西舘さんは家業が酒屋だったということもあり、中学時代の先生に勧められ、微生物の勉強ができる盛岡農業高校へ進学した。「学んだことを活かせる仕事をしたい、いずれ家業を継ぐとしても酒の知識を深めたい。」ということから菊の司酒造へ入社。
研究部門に配属され、オリジナルの酵母づくりに取り組んだ。入社5年目からは酒の管理全般を任せられる。入社5年目といえばまだ23歳程度、若くして管理を任されたことに驚いたが、西舘さんいわく「上司が退職して、引き継げるのが自分しかいなかっただけ。」と謙遜する。「自身のスキルアップのため。」と杜氏になるための勉強を始め、数年前に杜氏の資格を取得。
2018年7月より菊の司酒造の杜氏となった。現在は、各地で開催される酒の品評会の審査員も務め、年末には岩手県青年卓越技能者章も受賞した。

蔵で、酒粕を剥がす作業をしている様子を撮影する西舘さん。菊の司酒造では情報発信にも力を入れている。西舘さん自身も写真が好きで、フェイスブックで仕事のことや地域のイベントへ参加した様子を積極的に投稿し、発信している。(菅原撮影)
母校の高校生と一緒につくった酒米でつくった酒はアウトドア用!?
母校である盛岡農業高校とは、「酒粕の活用法についてのアイディアを生徒にも考えてもらいたい」という依頼をしてからのつながり。
2018年になって、高校生から「酒米を作ってみたい。」という相談を受け、「造る酒のイメージをしての酒米づくりをトータルで一緒に勉強しましょう。」と引き受けた。西舘さんは、杜氏の勉強をしている中で、酒造りには酒米が大事だということを改めて実感していたという。宮城県に契約栽培を依頼している農家があったが、なかなか見に行くことができず、地酒を造っている以上、できるだけ地元の酒米を使いたいという想いを持っていた西舘さんにとっても、いい機会であった。
作付けする前に、実際に滝沢の砂込にある圃場を訪れ、先生とどのような酒にするかを相談していた際に「田んぼのど真ん中に立って。岩手山がどんと見える。岩手山を見ながら飲む酒をつくろう!となったんです。山の上で飲むとか。アウトドアで飲む酒。スッキリな味わいという味のイメージも浮かびました。」という。
こうして、“純米酒岩手山”づくりがスタートした。
西舘さんも度々圃場を訪れ、“酒造りに適した酒米”の視点からのアドバイスをしながら高校生たちの米作りを見守った。

岩手山の全体が見える滝沢市砂込にある盛農田んぼ。西舘さんのフェイスブックの投稿では、田植えから稲刈りまでの様子が綴られている。(西舘さん提供)
岩手山の山開きで販売開始
収穫された酒米は3000ℓ醸造され、“岩手山”という銘柄から、7月1日に行われた岩手山山開きで販売をスタート。
「頂上でカンパイしたい!」と購入した登山愛好家も多かったようだ。スッキリ辛口の味わいは飲みやすいと評判に。
また、高校生が作った酒米で醸造したという話題性もあり、年内には蔵から在庫がなくなった。

“岩手山”という銘柄は、以前はお土産用として一部地域での販売しかしていなかった。今回は、岩手山の見える範囲でもっと広く販売したいという想いもある。(井上佑香さん提供)
これからも滝沢の酒米で酒造りにチャレンジしたい
今回の試みを通して、自分自身が実際に酒米作りに関わることで、滝沢では、良い米作りを左右する土、水はけ、日照時間、風の吹き具合などにおいて好条件がそろっており、米の作りやすい環境だということがわかり「今後も滝沢の酒米を使っていきたい。」という。また、「杜氏になるために酒米の勉強はしていて、知識はあったものの、実践を通してあらためて米作りを一から学べたことは大きい。」と自身の学びにもつながったようだ。
今後について、「ゆくゆくは超こだわった酒造りをしてみたい。例えばAさんが栽培した酒米で仕込んだ酒といったように、農家さん毎の酒米で酒造りをして販売するとか。滝沢の農家さんにもどんどん携わってもらいたい。あとは、家業が酒屋だったこともあるから、滝沢の地元にマニアックな酒の小売店を出店したいですね。」と夢は広がる。「次期蔵元はチャレンジ精神を持った人。いい酒を造るためにはどうしたらよいかを考えて、実践できる。」という西舘さんの言葉から、西舘さんと次期蔵元のタッグによる菊の司の今後の酒造りが楽しみである。
3月からは2回目の“岩手山”の仕込みが始まる。今年の岩手山の山開きでは、“岩手山”を背負って、ぜひ頂上で「カンパイ!」を。

地域活動にも積極的に参加。地元滝沢で活動する団体のイベントでは“岩手山”ストーリーを紹介。この他、甘酒づくりを教えたり振る舞ったりと、業を活かした関わり方で、地元の盛り上げに一役買っている。(井上佑香さん提供)

